1-3 出会い
当鎮守府で初めて自力で手に入れた艦は、川内型軽巡洋艦、那珂であった。
「えーっとぉ、那珂ちゃんのプロデューサー……じゃなくて提督はこの人?」
「なのです」
「提督、おはようございまーす!(キラッ)」
大困惑である。『こういう』子ばかりがこれからたくさん鎮守府に来るのだろうか。
「あ、お、おはよう……(今は昼なんだが……)」
「あれー、どうしたんですかー?元気ないですよー?」
「し、司令官さんは初めての出撃だったので戸惑っているのです。」
「ふーん?」
電のフォローは半分合っているが、半分合っていない。それはともかく、この状態から早く脱しなければ、困惑の理由がばれてしまうかもしれない。
「よ、よし、艦隊は帰投、新戦力について調査するからしばらく待機だ!」
「はーい!」「なのです!」
――軽巡洋艦とは、駆逐艦を率いた艦船であり、駆逐艦よりもやや大きい。
そのために主砲など、駆逐艦よりも搭載できるものは大きく威力も高い。
さらに魚雷攻撃が駆逐艦同様に可能である。――
自分なりの解釈をしたが、艦船の種類などもわからずに志願したために、使い勝手が全く分からない。
困惑はさらに深くなっていくばかりだ。
「うーん……」
「どうされましたか?」
任務について詳しい大淀が困惑を読み取ったらしい。
「艦船の使いどころがいまいち解らなくてな……」
「そうですね、最初のうちは弱い敵部隊との戦闘にしか出撃許可が大本営から降りません。ですからその間に自分なりの使い方を探してみてはいかがですか?」
「しかし轟沈の危険もあるのだろう?」
多くの提督が自軍の艦娘の轟沈を目にしたという情報が既にこちらにも届いていた。
その情報はやや錯綜しており、中程度の損傷でも攻撃を浴びると沈むといったものから、大破後にしか沈まない、猫に気を取られていると沈む、などといった真偽不明の情報も含まれていた。
「気になるのであれば、中破で撤退なさるのがよいかと……私たちもそこまでは把握しておりません。」
「そうか……」
一抹の不安を抱えながらも、とりあえず出撃することにした。旗艦は那珂だ。火力は電よりも高い。目標はさっきと同じ、鎮守府前だ。
「お仕事ですね!」
――結果は圧勝だった。砲撃、雷撃、追撃戦、ともに那珂が決め、あれよあれよと敵駆逐艦を撃沈していった。その命中率は、のちに入ってきた軽巡と比較すると神がかり的であったため、あとで拍子抜けするほどであった。
「お仕事しゅーりょー!お疲れさまー!」
「那珂、いい働きだった。次もよろしく……」
そう言いかけると、那珂は少しむすっとした顔でこう言った。
「んもー!ちょっと堅いし暗いよー!那珂ちゃんはアイドルなんだからもうちょっと気を遣ってよねっ!」
「あっはい」
底ぬけの明るい、というか目立ちたがり屋の性格に圧倒されそうになる。
「提督、新しい任務が――」
さらに那珂はドアを開けて入ってきた大淀の言葉を遮り、命令書を奪い取ると、
「提督にお仕事のご連絡です!」
と、机代わりのダンボールの上に書類を素早く置いた。
「おい、那珂――」
「那珂ちゃんは那珂『ちゃん』って呼ばないとだめなの!」
「あっはい」
と、注意しようにも完全に相手にペースを持っていかれてしまっている。見かねた大淀が那珂に補給を命じるまでこの会話は続いた。
「ふう……提督って大変だな……」
「提督、本来の業務は任務をこなすことですから、那珂ちゃんとの会話を楽しむのもいいですけれど出撃もしてくださいね?」
「ん?あ、ああ……」
その言葉には違和感があった気がしたが、適当な相槌をうってしまった。
「補給、改修が終わったら艦隊を再編成、出撃する。」
その後も那珂の快進撃は続き、南西諸島沖、製油所地帯沿岸、南西諸島防衛線と突破し、途中で入手した艦が大破し撤退したことを除けば非常に順調な結果となった。
「重巡洋艦も夜戦で一撃とは……」
「那珂ちゃんすごいでしょ?!ファンになっちゃったでしょ?!」
「私はずっと那珂ちゃんのファンですよ?」
途中で合流した、姉の神通が口をはさむ。
「ああ、那珂ちゃん、次も頼むよ。」
知らずにちゃんづけをしていたことに反応したのか、
「あ!提督がちゃんづけしてくれた!これはもうファン確定ですね!」
と騒ぎ立て、それを神通が落ち着かせようとする。
騒がしい司令室。
こういうのも、悪くないかな。
そんな気分にいつの間にか変化していたのだった。