シルミノのしるし

シルミノが好きなもの・気になったことに関してノンジャンルで書いていくブログ。

軽巡那珂の航跡 3

第1章 初日

1-2 初戦

 

 

 

「ここが本当の司令官さんの部屋なのです。」

8畳間くらい……だろうか。荷物の段ボールが積み重ねて置いてある以外は何もない、ただの部屋だ。

「一人暮らしのときを思い出すな。これよりはもう少し狭い部屋だったが。」

提督業募集の広告を見たのは横浜だった。そのときには近くの横須賀鎮守府は既に満杯で、遠地に行かなければならなかった。そのなかに幸い、地元に近い舞鶴があったのだ。

「最上階だけあって、良い景色だ。」

「…司令官さん、お仕事頑張りましょう。」

「ああ。」

 

――ピピピ……電文だ。

「最初の任務なのです!」

「内容は?」

「偵察に来た駆逐艦1隻を倒せ!だそうです。」

「電、よろしく。」

「はい、なのです。」

さあ出撃だ。まずはこの階段6階分を降りるというところからだ。出撃する前に疲れてしまわないかという気持ちもあるが、この間に落ち着いて指揮体制を整えねば……さもないと、敵と同レベルの駆逐艦である電がどうなるか、保証はない。

 

海が眼前に広がっている。港で初の出撃の前にレクチャーを受ける。

司令官さんは旗艦……つまり私に出撃、追撃、退却の指揮を出します。」

「ふむ」

「後は指示を艦娘にするのです……が、普通は砲撃音で聞こえないので、最初にとる陣形以外は私たちにおまかせなのです。」

「ん?」

「最大目標を撃破したら、新しい海域に行くのが許可されます。あとは任務をこなすのです。誰かが怪我したらお休みさせるのです。」

「待って、俺……んん……私の仕事は?」

咳払いをして訂正したが、もうばれているかもしれない。

「え?……えーっと、今言いましたけど……」

「いや、海上での仕事が陣形と進退しかないじゃないか……」

司令官さんは忙しいのです。」

「そ、そうなのか……?」

「なのです。」

段々、この娘が本当のことを言っているのか疑わしくなってきた。ともかく、出撃するしかないか。

「じゃ、じゃあ出撃するぞ。」

「なのです!目標は鎮守府近海の駆逐艦なのです。」

 

 

――海上。

かつての戦争では、軍艦に人が乗って戦っていた。船は乗り物だから、当たり前だ。しかし、この戦争は違う。旗艦に提督が乗れないのだ。

「おい、電。」

「はい?」

「野良駆逐相手とはいえ、戦場にボートはまずいんじゃないか?」

数キロ後方で双眼鏡片手に俺は尋ねた。今時の戦争であるから、テレビ通話も無線で繋がっている。

「私たちの攻撃では装甲で固めたボートは沈まないのです。小さいので」

「そのくらいの攻撃力で敵もこの国を攻めようとしている、と誰が言ったんだったか……。」

「か、数が多いのです……!」

「せいぜい数万規模じゃないのか。元々の募集人員は2000……」

「敵は数億と聞いたのです。」

「……」

募集人員が大幅に超過しても集める理由はここにあったらしい。さらにこの数は爆発的に増えている、というから恐ろしい。もっとも、例の横須賀軍がかなり削っているらしいが。

「――はっ!」

電が声を上げる。どうした。そう口に出す前に続けて、

「敵艦発見なのです!駆逐イ級なのです!当方1隻なので陣形は単縦陣なのです!電の本気を見るのです!」

「はやいはやい」

「指示を!」

……我に帰る。途中からいい加減に話を聞いていたせいで、指示をする側だということを忘れていた。轟沈の可能性はないわけではない。すぐに中継画面を見る。左舷前方から突っ込んでくる敵艦。軍艦は……確か側面が強いはず……。

「右舷旋回、機関停止、左舷から集中砲火と雷撃だ!」

「なのです!」

直後に爆発音。こちら側への着弾だ。指示が遅れたせいで電に敵の砲弾がかすった。数秒後に砲撃音が聞こえた。今度はこちらの攻撃のようだ。命中まではいかないようだ。その後の敵の攻撃は先ほどの指示で回避できたか。

「魚雷、命中させちゃいます!」

そう聞こえたような気がしたが、もはや轟音で聞き取ることは難しい。映像も波しぶきで見えにくい。やっとカメラの視界が開けたとき、そこに見えたのは遠くの白いしぶきと、その中から現れた駆逐イ級だった。そしてその体は半分以上、水の中だ。

 

「……命中したのです。」

――本部、応答せよ。本出撃の報告をする。戦果、駆逐1。損害軽微。初戦は本部より帰投命令のため、これより艦隊は帰還する。――

 

「……無事だったか。」

「酷い怪我じゃなかったら、多分すぐには沈まないのです。」

「そうか。……指示が遅れて申し訳なかった。」

「最初だから……大丈夫なのです。」

初戦は、上出来ではあったがやや被害もあるという

――後に、電もこのときが初戦だったということを知らされ、肝を潰すことになるが、それは別の話である。……そのことよりも、そんなことよりも――

 

 

「新しい艦が合流なのです!」

「お?」

記念すべき初ドロップは――

 

 

 

 

 

 

「艦隊のアイドルぅ~!那珂ちゃんだよー!!よっろしくぅ!!!」